「もし、その恋が実れば、歴史は揺らぎ、国は震える。」(帯コピーより)

彗星の住人

彗星の住人

豊饒の海」を読むきっかけになったのはこれを読んだからです。
どこかでこの作品の下敷きに「春の雪」がされているということで興味を持ちました。
とりあえずの共通点としては1.禁じられた恋(もしくは成就しない恋)を描いた作品であること2.主人公が美少年であり、優柔不断なこと3.ヒロインもまた美少女であること(勿論、主人公のことは愛している。)なくらいかな?
これはこれで別の味付けがあります。それはオペラの「蝶々婦人」
プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」全曲

プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」全曲

を下敷きにしているところです。主人公の常盤(旧姓:野田)カヲルは蝶々婦人の3代後の子孫です。彼の父野田蔵人、祖父のJB(彼が蝶々婦人の子ですね。)の歴史を揺るがすような放浪と恋の物語です。JBは野田那美とナオミ(ユダヤ人で「喜び」という意味の名前)と恋をし神戸、満州と熊野を旅し、蔵人は松原妙子(彼女は往年の名女優:原節子がモデルと思われる。)と恋をし焼け野原の東京で音楽を届けるために自転車をこぎマッカーサーに対峙する、カヲルは未来の皇太子妃を追ってアメリカに渡る。それぞれが歴史に関わっていると云う。もしかしたら歴史を揺るがすような恋なのだ。(歴史家の僕でも、そんな歴史があっても良いのではないかと思う。いや、もしかしたらそれこそが歴史の真実の一面かもと錯覚させるだけの技量を備えている作品だと思う。)
ただカヲルの恋だけは結論しか語られていない。
それは次に続くのである。本作もまた「無限カノン」という連作の始まりでしかないのだ。
激しい彼の恋は次作「美しい魂」で、爆発するのだ。
美しい魂

美しい魂

この作品は「無限カノン」のなかで、一番情熱的でドキドキする。
爆発的な恋と美しさ、そしてはかなさがある。これについてはまた別の機会で語りたいと思う。