暗いんだけど救いのある

石の来歴 (文春文庫)

石の来歴 (文春文庫)

昨日、たまたま「xxxxなどということは、全然なく○○○○○○○だ。」という表現を使い、作家の奥泉光の小説を紹介したので、彼の著作「石の来歴」を紹介します。
これは彼が芥川賞をとった作品。当時、大学生だった僕の友人の間ではすでに有名人でした。(「ノヴァーリスの印象」や「葦と百合」を書き上げていました。これらの作品はミステリー仕立てでありながら現実と虚構の「間」を描いています。また彼の文章は格調高い重厚な=ゴシック的な文体なのだけれど、率直な語り口などを織り込み平易さと同居させたような日本語表現が非常に上手で感嘆したものです。いつ芥川賞をとるのかを居酒屋で、安い麦酒を飲みながら話していたものでした。そう、この人は、ビールを必ず「麦酒」と表記しています。なぜかおいしそうに感じたものです。)
そんな彼が、ついに芥川賞を受賞したのが、この作品でした。当時はあまり好きではありませんでした。なぜならこの作品が暗く地味な作品だったからです。勿論、話の内容が暗く感じただけでなく、そのせいであの格調高い日本語もとても暗く感じてしまったからです。
しかし時がたつにつれ、なんとなく分かってきたように思いました。
主人公の真瀬名は戦争中のレイテで今にも死にかけている上等兵から

「君は普段路傍の石に気をとめることはないだろう。。。」

と岩石の生成と地球の神秘について語られ、それがきっかけで復員後、岩石の収集を始める。そしてその彼にさまざまな不幸が訪れるという話です。でも最後にこの不幸を断ち切り、明るい光の下に立ち、

石は掌のなかで美しく輝く結晶に変わった。

この話はラストのためあるのではないか?この救いのための闇。闇は深ければ深いほど救いが輝きを増す。そう一神教であるキリスト教における神とその偉大さを讃えるためだけに邪悪な悪魔が存在するかのよう。これに思い至ったのち、この作品は非常に好きな作品となり、年に何度となく読み返すほどの作品になりました。
ちなみに同時収録の「三つ目の鯰(なまず)」は父の死をによって祖先との血のつながりについて考える大学生の話ですが、妙にテンポ良くホノボノとしていて、いい味を出しています。最後に出てくる旧約聖書の神とヨブの挿話が印象深いです。
ご参考までに

ノヴァーリスの引用 (集英社文庫)

ノヴァーリスの引用 (集英社文庫)